25 李 大浩(内野手)
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オリックスで孤軍奮闘のイ・デホは,本物の“アジアの大砲”になれるか? すべて,見透かしているかのようだった。 昨季セ・リーグの新人王・澤村拓一を前にした時の,イ・デホ(李大浩)の打撃である。 6月2日のオリックスvs.巨人戦。 オリックスの主砲イ・デホは1回裏,1死一,三塁の好機で打席に立つと, 澤村が力いっぱい投げ込んだ145キロのストレートを右翼前にはじき返す適時打を放った。 2打席目は1死一塁から初球を右翼前,3打席目は1-2と追い込まれながら, 目の覚めるような打球を中前へはじき返した。 2打席目は初球だったが,1,3打席は澤村の変化球を見切って,ストレートを捉えたものだ。 韓国から来た大砲とセ・リーグを代表する若手有望株の対決は, 澤村の魅力を木端微塵にしてしまうような,イ・デホの凄まじい打棒だけが目立っていた。 「私はストライクに来た球を打っていくタイプじゃない。 タイミングがあって,球種が合えば,ボール球になっても十分に打てる。 澤村という投手の名前は知っていた。 若手の中でもいいピッチャーだと。 でも,相手のピッチャーよりも,自分の調子が上回っていた。 積極的な気持ちで打席に立てていたから,十分な仕事ができたのだと思う」 淡々と勝負を振り返るイ・デホの様子に,確固たる主砲の矜持を感じた。 ■過去の韓国人打者は「アジアの大砲」というには物足りなかったが。 韓国球界のスター選手が日本にやってくるという例は,彼に始まったことではない。 韓国で年間56本塁打のアジア記録を打ち立てたイ・スンヨプ(オリックスなど)や 第2回WBCの日本戦でも活躍したキム・テギュン(ロッテ)など, 韓国のスター選手たちは,来日するたびに多くの期待と注目を集めてきた。 だが,彼らがその前評判ほどに活躍できたとは言い難い。 イ・スンヨプはそれなりの活躍ができたとはいえ, 「アジアの大砲」にしては物足りなかったし, キム・テギュンにいたっては,契約途中に帰国し, そのまま退団するという後味の悪さを残して日本球界を去っていた。 そんな状況の中で,韓国で2度の三冠王をとったイ・デホが日本へやってくる――。 昨オフの関西地区を騒がせたこのニュースに, どれほどの人物が期待を抱いていたのか疑問だった。 ■イ・デホの成功を確信していたオリックス。 ただ,オリックスはイ・デホに対して,成功を確信しているかのようだった。 契約条件も日本に来た韓国人選手としては最高額となる推定2年7億円という数字だったし, 入団会見を釜山で行い,さらには岡田彰布監督も同席するという異例の待遇は, 彼への切なる期待を感じさせた。 そもそも,オリックスにとって,イ・デホは待望の選手だった。 というのも,近年,坂口智隆やT-岡田など, 若手選手の成長著しかったオリックスだが,編成に偏りがあった。 坂口やT-岡田,チームキャプテンの後藤光尊,ベテランの日高剛など, 好打者に左打者が多かったのだ。 右の期待できる打者といえば,北川博敏くらいのもので, あとは,他球団で実績のあった外国人を手当たり次第に獲得しては首を切るという 負の連鎖を繰り返していた。 昨年のドラフトで一気に6人の右打者を指名した(育成含む)のも, 右打者不足を懸念しているからだったが, ドラフトはあくまで数年後を見据えての戦略であって現実の強化策ではない。 投手・野手とも,若手が伸びつつあったオリックスにとって, 現状,求められていたのは右打者。 それも,大砲だったのである。 だから,イ・デホの獲得が必要だった。 ■どんな選手にも辛口の岡田監督が「首位打者を狙える」。 キャンプインしてからも,イ・デホに対する首脳陣の評価は高かった。 「首位打者を狙える」と,どんな選手にも辛口で知られる岡田監督でさえも, 太鼓判を押していたほどである。 イ・デホのフリー打撃は圧巻のひとことだ。 力感は感じないのに,それでいて力強い打球を左右のスタンドにぶち込む。 194センチ,130キロという巨躯から放たれる打球はまさに助っ人と呼ぶべき, 日本人にはないパワーを見せつけていた。 彼のフリー打撃の打球は,驚きを超えて思わず笑みがこぼれてしまうような, 惚れ惚れとするものがあった。 しかし,いざ開幕してからというもの,イ・デホのバッティングはなかなか調子が出なかった。 初本塁打まで17試合を要したし, ホームランだけが売りではないイ・デホの肝心の打率までが低調だったことも, 過去の“助っ人”韓国人選手たちの悪いパターンを思い起こさせるものだった。 ■開幕直後,極度の打撃不振で鈍足ばかりが目立っていた。 4月21日の日ハム戦で武田勝から来日初本塁打。 開幕してから1カ月弱のことだが,それでも,調子が上がらない。 目立ってしまうのは二塁打コースのヒットをシングルヒットにしてしまう鈍足ぶりばかりで, 主力の故障離脱と重なりあって,チームとともにどん底状態に陥っていた。 それが,5月6日,日ハム戦で防御率0点台の吉川光夫から 第3号本塁打を放ったあたりから上昇の兆しを見せる。 同月11,13日の楽天戦で1本塁打ずつ。 交流戦が開幕すると,5月19日のヤクルト戦で9回表に,一時は逆転となる2点本塁打。 そこから3試合連続でアーチをかけた。 27,28日のDeNA戦でも2試合連続本塁打を放ち, 気がつけば,パ・リーグの本塁打王争いのトップに躍り出ていた。 5月だけで8本塁打。 さらに,本塁打とともに打率も上昇。 初本塁打のころは.210程度だった打率は10本塁打の時点で,.264へ。 そこから,さらに調子を上げ,6月3日時点で.293と3割も目前に迫るほどになった。 ■イ・デホの魅力は単なるパワーヒッターではないところ。 3試合連続本塁打を放った5月22日の阪神戦のあと, 本領を発揮し始めたイ・デホの様子を岡田監督はこう評価した。 「開幕してからストライクゾーンに対して悩んでいて,ナーバスになっていた。 今はストライクゾーンにも,相手の攻め方にも慣れてきている。 開幕時に比べても,考えたバッティングができている。 ストレートだけじゃなくて,いろんなボールを打てているのが, 対応できている何よりの証拠やと思う」 指揮官の言葉にあるように,イ・デホの持ち味は単なるパワーヒッターではないところだ。 インコースを引っ張りこむときがあるとはいえ,基本はセンターを軸に, 右中間から左中間の45度空間にヒット&ホームランゾーンがある。 ストレートに偏ることなく,変化球でも同じように打ち返せる技術を持つ。 イ・デホも,手ごたえを感じている。 「5月25日の広島戦でサヨナラ安打を打ちましたけど,打点を取れているのが一番うれしい。 打点を取って,チームが勝つ。 最高の気分ですね。 今,バッティングがいいのは,練習と試合とがかみ合ってきているからだと思う。 開幕のころは,打席で心配ばかりしていたのでね。 何を投げてくるのか,どう攻めてくるのか,それをどう打てばいいのか……。 今は,積極的に打席にむかえているから,力を発揮できている」 ■「イの後を誰が打つかが鍵になってくる」(岡田) 開幕して日本野球に順応するまで少し時間はかかったが, 一つ目の山を越えたというところだろうか。 水口栄二打撃コーチは言う。 「開幕したころは,苦しんでいたと思いますけど, 今は,日本の野球に慣れてきたということでしょうね。 柔らかくバットが振れる選手なので,活躍できると思っていた。 やはり,順応力が今までの選手とは違う部分じゃないでしょうか」 岡田監督は「イの後を誰が打つかが鍵になってくると思うよ。 今はバルディリスがやっとるけど,後ろのもんがカバーせなアカン」と危惧している。 イ・デホの活躍が目立てば目立つほど,当然,マークも厳しくなる。 5番打者が弱ければ,イ・デホに無理な勝負はしてこないだろうし, 勝負してきたとしても,ぎりぎりのコースを突くという攻め方になる。 そうなれば,イ・デホは難しい球を打ちにいかなければいけない。 ■「アジアの大砲」となって,不運なオリックスを救えるか? オリックスにとって不運なのは, この主砲が復活したタイミングで偶然にも“チームの骨格が崩れてしまった”ことだ。 先述したようにイ・デホは,左打者偏重の打線に右の要素を加える打者であったはずなのだが, それ以前にチームの屋台骨であったはずの坂口やT-岡田が故障で離脱してしまっているのだ。 さらに後藤までが絶不調で…… イ・デホひとりでチームを背負わなければいけない状況に陥っている。 それでもイ・デホだけは,悲観するそぶりも見せていない。 6月2,3日の巨人戦では2試合で8打数5安打と固め打ち。 チームとしての課題は多いが,彼に関しては順調そのものである。 「相手投手がどうであるか。 関係ない。 大事なのは自分自身だと思う。 ボールに悩まずに積極的にスイングする。 自分自身をコントロールできれば,大丈夫だと思う」 全てを見透かし,澤村をまるで子供扱いしたような打棒はまだまだ凄みを増していきそうだ。 「ヒットを打った・打たないではなく,良い打席をむかえられている」 韓国からきた“本物の大砲”は日本野球界を席巻するかもしれない。
ここにルーキー川端や新加入のスケールズという要素を絡めて
少しでも借金を返済して
T-岡田や坂口の復帰
そして後藤の復調を願いたいですね。
少しでも借金を返済して
T-岡田や坂口の復帰
そして後藤の復調を願いたいですね。
【写真は,とにかく大きいのは体だけじゃない李大浩。打撃のスケールも大きい選手です。】